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カクテル
「マルガリータ」と言うカクテルがある。 バーに行くと木下君は、いつもたのむ。スノースタイルだから、カクテルグラスが少量のソルトで縁どられている。ウオッカベース(40ml)に、ホワイトキュラソー(5ml)、レモンジュース(15ml)でシェイクすれば出来上がる。云っちゃあ悪いが、彼には似合わない。但し、気持ちよく飲んでいるから、口に出して言えないのが誠に心苦しい。
さらに、もう一つ好きなカクテルがある。「セックス・オン・ザ・ビーチ」と言い、かって、トム・クルーズ主演の「カクテル」でメジャーになったものだが、どこが好きなの?と聞けば“いやなに、セックスって入っているからですよ”と言う、聞くだけ損をする。
月田さんは、「ブース・カフェ」を飲む。少し、技術が要るので、時間もかかるが、出来上がると飲んでしまうのが惜しくなる。グレナデンシロップ、クレームドバイオレット、ペパーミントリキュール、イエローシャルトリューズ、ブランデー、各10mlを層状についでゆくのである。彼女なら、木下君と違って、何を飲んでも良く似合う。
イアン・フレミング原作の「007シリーズ」主役ジェームス・ボンドが、愛飲する「マティ二」を私も飲む。ジン(50ml)、ドライベルモット(10ml)、オリーブ1粒、レモンピールで、カクテル最大傑作、カクテルの帝王と呼ばれている。バーの片隅でしんみり飲むのが良いが、そんなことは全く無い。また、カクテルにはならないかもしれないが、「マンハッタンの夕暮れ」も好きで飲む。これは実に簡単で、オールドファッションドグラスに氷と水を7割方入れ、上から静々とブランデー(ウイスキー)を注ぐと、まるで夕焼けのように見えるところから、名ずけられた。モチロン、夕焼け部分をいただく訳だ。
ところで、「マルガリータ」は、作り出したバーテンダーの恋人の名前で、ある事件に巻き込まれ流れ弾に当たり、死んでしまった。もっと大事にすればよかった、失ってみて初めて、自分の中に存在する恋人の大きさに愕然とし、カクテルにその名をつけ、後悔の念を刻み込んだ酒である。やはり木下君にはまったく似合わない。
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